2009年1月23日金曜日

残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に関する判例を紹介します(つづき)。 

第2 事案の概要
1 前提となる事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者
ア 被告
 被告は,医学系の学会やその関連事業の企画運営,出版などを業とする合資会社である。
 被告は,平成10年9月21日に設立され,当初の所在地は,大阪府吹田市〈以下略〉であったが,平成12年10月27日,現在の住所地に移転した。被告の本店事務所は,被告代表者である無限責任社員乙山月子(以下「乙山」という。)の自宅と隣接している。
 被告は,15名程度の学生アルバイトを雇い,フルタイムの従業員は,1,2名であった。
イ 原告
 原告は,平成11年9月,被告に雇用され,平成15年10月21日に解雇されるまで,被告のもとで就労した。
(2)雇用契約
ア アルバイトとしての採用
 原告は,平成11年9月,被告にアルバイトとして採用された。
 賃金は時給900円で,半年間様子を見るという約定であった。
イ 正社員としての採用
 原告がアルバイトとして採用され,3か月が経過したころ,平成12年1月から,被告に正社員として採用されることとなった。その際,合意した契約内容は,次のとおりである。
(ア)給与
月額22万円
月末締めの翌月5日支払
(イ)労働時間
所定就業時間 午前10時から午後6時まで
休憩時間 1時間
(ウ)所定休日
土・日・祝祭日
ウ 雇用契約の内容の変更
 その後,昇給があり,平成14年は月額24万円,平成15年は月額25万円であった。
 所定労働時間が変更となったか否かについては,当事者間に争いがある。
 なお,被告にはフルタイムの従業員が原告しかいなかったため(一時,2名の時期があった。),原告に適用されるべき就業規則,給与規定の制定はなかった。
(3)解雇
 原告は,平成15年10月21日,解雇された。
2 原告の請求(訴訟物)
 原告は,被告に対し,平成14年10月分(9月30日分を含む。)から平成15年10月分までの時間外労働(残業)、深夜労働に関する未払割増賃金(残業代)等として173万9065円及びこれに対する遅延損害金の支払と,付加金として上記割増賃金(残業代)等のうち平成15年3月分から平成15年10月分までの77万5191円と同額の金員の支払を求めている。
3 争点
(1)原告の時間外労働(残業),深夜労働の有無
(2)割増賃金(残業代)等の算定
(3)付加金
4 争点に関する原告の主張
(1)原告の時間外労働(残業),深夜労働の有無
 原告は,平成14年10月分(9月30日を含む。)から平成15年10月分までの間,別紙1〈略〉超過勤務手当計算表のとおり,所定労働時間及び法定労働時間を超えて時間外労働(残業)をした。 
 なお,乙3の1ないし17のパソコン入力のワーキングフォーム(出退勤表)は,原告が作成したものではない。
(2)割増賃金(残業代)等の算定
ア 原告の月額給与は,平成14年12月分まで24万円であり,平成15年1月分以降25万円であった。したがって,割増賃金(残業代)の計算の基礎となる賃金は,平成14年12月分までが時間単価1385円,平成15年1月分以降が時間単価1443円となる。
〔計算式〕
(円/月)(月/年)(週/年)(時間/週)(円/時間)
240,000 ×12 ÷52 ÷40 =1,385
(平成14年12月まで)
250,000 ×12 ÷52 ÷40 =1,443
(平成15年1月以降)
 これに前記(1)の労働時間を乗じ,所定時間外労働(残業)のうち,法定外時間外労働(残業)については0.25の割増を,深夜勤務についてはさらに0.25の割増をして計算すると,上記期間の割増賃金(残業代)等の合計金額は,別紙1超過勤務手当計算表のとおり173万9065円となる。
イ 不支給の合意について
 なお,割増賃金(残業代)不支給の合意は,公序良俗に反し,無効である。
(3)付加金
 被告は,原告に対し,平成15年3月分(平成15年4月5日支払日)以降の法定時間外労働(残業)及び深夜労働に対する割増賃金(残業代)に相当する77万5191円を付加金として支給すべきである。
5 争点に関する被告の主張
(1)原告の時間外労働(残業),深夜労働の有無
 被告は,原告に対し,午後6時までに退社するよう指示していたが,原告は,被告の費用で提供される夕食を食べて帰ることが多かった。仮に,原告の退社時刻が所定の終業時刻を越えることがあったとしても,時間外労働(残業)の実態はなかった。
 なお,原告が提出するワーキングフォーム(甲1の各号)については,被告が作成を指示したものではない。また,その記載の根拠は示されておらず,数字の羅列に過ぎない。
(2)割増賃金(残業代)不支給の合意
 原告と被告は,雇用契約締結時,時間外手当(残業代)については,給与面で評価するので,これを支払わない旨合意した。
 また,被告は,原告に対し,バイク通勤にもかかわらず月額3万円の交通費を支給したり,毎月多額の昼夜の食事代を支給したりしていたが,これらの措置も,原告に対し時間外手当(残業代)を支給しない代償措置であった。
 したがって,仮に,時間外労働(残業)が認められても,被告の支払義務はない。
(3)付加金
 仮に,原告に対し,支給されるべき時間外手当(残業代)があるとしても,前記(2)のとおり,不支給の合意があったことや,被告が代償措置を講じていたことなどに照らすと,被告に対し付加金の支払を命じることは不相当である。

なお、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。そのほか、個人の方で、不当解雇保険会社との交通事故の示談交渉刑事事件多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題オフィスや店舗の敷金返還(原状回復)などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。