2009年6月21日日曜日

残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。

3 割増賃金(残業代)等の算定
(1)不支給の合意について
 前記1(2)エのとおり,原告と被告との間で,時間外手当(残業代)不支給の合意があったと認めることができる。
 しかし,不支給の合意があったとしても,労働基準法32条,37条の趣旨に照らすと,特段の事情のない限り,上記合意は,公序良俗に反し,無効というべきである。
 なお,被告は,原告の給与水準が高すぎると感じて,その減額を求め,時間外手当(残業代)を代わりに支給する案を提示したが,明確に拒絶されたと主張する。
 しかし,上記提案の際に,時間外手当(残業代)を支給するとの条件提示がされていたことを裏付ける証拠はなく,単に,給与の減額を提案したが,拒絶されたに過ぎないことが窺える。
(2)割増賃金(残業代)の算定の基礎となる賃金
 原告は,平成14年10月分から同年12月分までは,基本給月額24万円の支給を受けており,平成15年1月分からは基本給月額25万円の支給を受けていた。
 また,原告の所定労働時間は,1日7時間であり,土日のほか,祝祭日が所定休日となっていたことによると(前提となる事実(2)イ(ウ)),割増賃金(残業代)の算定の基礎となる1時間当たりの賃金は,少なくとも,原告の主張する金額を越えることは明らかであるので,割増賃金(残業代)の算定に当たっては,原告の主張する金額(平成14年12月までは1385円,平成15年1月以降は1443円)により算定することとする。
〔計算例〕
(円/月)(月/年)(週/年)(時間/週)(円/時間)
240,000 ×12 ÷52.14 ÷35 =1,578
(平成14年12月まで)
250,000 ×12 ÷52.14 ÷35 =1,643
(平成15年1月以降)
(3)割増賃金(残業代)の算定
ア 平成14年10月分(9月30日分を含む。)から同年12月分まで
 前記2(4)のとおり,平成14年10月分(9月30日分を含む。)から同年12月分までの原告の時間外労働(残業)等は,別紙2割増賃金(残業代)等算定表の各該当部分記載のとおり認めることができる(法定内時間外労働(残業):59時間,法定外時間外労働(残業):124時間,深夜労働:7時間)。
 前記(2)の1時間当たりの賃金を基礎として計算すると,上記期間の割増賃金(残業代)は,別紙2割増賃金(残業代)等算定表の小計欄記載のとおり,29万8815円となる。
イ 平成15年1月分から同年10月分まで
 前記2(4)のとおり,平成15年1月分から同年10月分までの原告の時間外労働(残業)等は,別紙2割増賃金(残業代)等算定表の各該当部分記載のとおり認めることができる(法定内時間外労働(残業):184.5時間,法定外時間外労働(残業):290時間,深夜労働:15時間)。
 前記(2)の1時間当たりの賃金を基礎として計算すると,上記期間の割増賃金(残業代)は、別紙2割増賃金(残業代)等算定表の小計欄記載のとおり,79万4734円となる。
(4)まとめ
 被告は,原告に対し,前記(3)の金員(合計109万3549円)及びこれに対する遅延損害金(弁済期の後である平成17年4月15日から支払済みまで年5%の割合による金員)を支払うべきである。 
4 付加金
 前記1(2)エのとおり,原告と被告は,時間外手当(残業代)不支給の合意を交わしていたことが認められるが,本来,このような合意は公序良俗に反し,効力がないものであり,むしろ,時間管理が適正に行われていなかったというべきである。
 もっとも,原告の給与,賞与等は,上記不支給の合意を考慮したうえ支給されていたことが窺える(〈証拠略〉,弁論の全趣旨)。
 これらの事情を総合すると,被告は,原告に対し,上記法定外時間外労働(残業)及び深夜労働に対する割増賃金(残業代)のうち,平成15年3月分から平成15年10月分までの41万4863円のうち,25万円に相当する付加金の支払を命じるのが相当と考える。
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2009年6月13日土曜日

サービス残業(残業代請求)

今日は、サービス残業の残業代請求についての裁判例を紹介しています(つづき)。

(キ)ワーキングフォームの記載と矛盾するメールの送信記録
a 平成14年4月24日における原告の退社時刻は,原告のワーキングフォーム上,21時10分(午後9時10分)と記載されているが(〈証拠略〉),同日午後9時12分,原告の自宅のパソコンから取引先にデータを送信しており(〈証拠略〉),上記ワーキングフォームの記載は誤りであると認めることができる。
b 平成15年10月16日における原告の退社時刻は,原告のワーキングフォーム上,25時21分(同月17日午前1時21分)と記載されているが(〈証拠略〉),同年10月17日午前1時4分,原告の自宅のパソコンからメールを送信しており(〈証拠略〉),上記ワーキングフォームの記載は誤りであると認めることができる。
(ク)以上によると,少なくとも前記(カ)a,b,e,(キ)a,bで検討したところによると,原告のワーキングフォーム(甲1の各号)の記載に他の証拠と矛盾する記載があり,ワーキングフォームの記載全体の信用性を減殺する事情といわなくてはならない。
エ 原告のワーキングフォーム(甲1の各号)の記載と符合する点
 乙山は,原告のワーキングフォームの記載中,平成14年12月24日,平成15年3月10日,同年3月31日については,原告の時間外労働(残業)があったことを述べる(〈証拠略〉)。
 上記ワーキングフォームにおいて,これらの日の記載を確認すると,いずれも,乙山が述べる残業の実態に符合する記載がされているといえる。
オ まとめ
 以上によると,原告のワーキングフォームの記載は,その作成経緯から考えても(前記イ),また,他の証拠との関係から見ても(前記ウ),その記載をそのまま採用することはできないが,全くのでたらめということはできず,一応,原告の記憶に基づき記載されているもので(原告本人),時間外労働(残業)の算定の資料とすることは可能といえる。
(2)原告の時間外労働(残業)を推認させるその他の事情
ア 原告の業務内容と残業の可能性について
(ア)被告は,被告の事業は理科系の知識を前提にするものであるが,原告の職務内容はその能力上,電話対応,コピー,簡単なパソコン作業程度の庶務に限定されるものであり,これらの業務を所定終業時刻(午後6時)以降行う必要はなかったと主張する。
 前記1(2)のとおり,被告は,原告が求人広告に応募する直前に,女性2名の採用を決めていた。うち1名は庶務として採用したが,隔日勤務であり,1日5時間程度という条件であったこと,その後の,原告の従事した業務内容を併せ考えると,原告の業務は,庶務のみではなく,庶務及び編集・製作の補助であったと認めることができる。
 したがって,必ず終業時刻には退社していたとは考えにくい。
(イ)平成15年10月における勤務状況
 被告は,平成15年10月に神戸で開催された学会のため,同年9月20日以降多忙を極めるようになったが,これらの業務は原告の業務とは関係がなく,原告が多忙となることはなかった旨主張する。
 しかし,このように被告の業務が多忙になれば,原告の業務が庶務的なものであったとしても,乙山や他の学生アルバイトの作業の補助をするため,必然的に多忙となることは推認され,原告が残業をすることがあっても不思議とはいえない。
(ウ)翻訳の外注について
 なお,被告自身,CCTの業務が終了した後,翻訳会社2社から作業代の請求があったことを認めており,原告が,発注したことが窺われる。仮に,乙山の承諾なく発注したものとしても,全く必要のない作業を外部に発注することは考えにくく,多忙のため,指揮命令系統の混乱から,業者に発注したということもあり得る。また,秘密性の高い情報を扱う場合は,被告の上記主張のとおりであったとしても,秘密性が低い情報については,多忙のあまり,外注することがあり,しかも,そのことを乙山が失念したという可能性も否定はできない。
(エ)被告の労働基準監督署に対する対応
 原告は,本件解雇後,平成15年12月8日,茨木労働基準監督署に労働基準法37条違反の申告を行い,労働基準監督官が,平成16年1月9日,臨検し,乙山から事情を聴取したところ,乙山は,「庶務であれば時給900円であるが,編集であれば,仕事も不規則なので,月額25万円の固定給とし,残業代は付けていない。成果はボーナスで評価することとし,申告人(原告)も合意の上入社した。申告人(原告)は編集といっても補助作業しかしておらず,専門業務型裁量労働制に該当するような仕事ではない。」と説明している。
 さらに「申告人(原告)がいなかった時間分も記録されているため,申告人(原告)の請求している根拠全体の信用性がないと考える。」と述べる一方で「申告人(原告)の請求に対し,たしかに時間外労働(残業)の実績はあったのだから,いくらかは支払うつもりはあるが,申告人の請求どおりに支払うことはできない。」とも述べている。
(〈証拠略〉)
 なお,乙山は,平成16年2月12日,労働基準監督官に対し,「事業主(被告)が命じた時間外労働(残業)に対する対価は約10万円であるが,その分を見込んで,多額の賞与を支払っていた。」と述べるに至っている(〈証拠略〉。なお,上記10万円に対応する期間は不明である。)。
イ 原告に対する退社指示
 被告は,乙山が,原告に対し,毎日厳しく,午後6時に退社するよう指示していたので,原告の主張する時間外労働(残業)はあり得ない旨主張する。
 これについて,乙山は,「(午後)6時を過ぎておられると大変に不機嫌でした,(午後)7時までには帰っていました。」と供述する(被告代表者本人)。しかし,一方で,前記(1)ウ(ウ)dのとおり,原告が遅くまで退社しなかったことが窺え,また,原告も,平成14年10月21日の知人宛のメールで,乙山が午後6時30分に帰社した後,原告に対し「何もしなくていいから帰れ」と言われたと述べている(〈証拠略〉)ことが認められる。
 そうすると,原告が常に早く退社しようとしていたという趣旨の乙山の上記供述は信用できない。
 なお,乙山からの退社指示があったにもかかわらず,その後,業務に従事したことをもって,割増賃金(残業代)を支払うべき時間外労働(残業)を認めることができるか否かについては,被告からの業務命令に基づく業務に従事していると認めることができる以上は,直ちに,時間外労働(残業)の存在を否定することはできないというべきである。
ウ 感情的対立
 なお,被告は,原告と乙山との間で,感情的な対立が頻繁に生じていたことを主張し,学生アルバイトであった者もこれに沿う供述をしている(〈証拠略〉)。
 しかし,これらの対立に端を発する言い争いの有無が,直ちに,原告の時間外労働(残業)の認定に影響を及ぼすとは考えられない。
(3)休憩時間について
 被告は,平成14年6月,原告の勤務時間を午前10時から午後7時までとし,昼食休憩時間を2時間とする旨改めて,本人に告げたと主張する。
 しかし,これを裏付ける証拠はなく,仮に,原告が,午後,うとうとすることがあり,上述した告知内容に関連する会話があったとしても,2時間,原告が完全に被告の指揮監督から解放されていたとまで認めるに足りる証拠はない。
 そうすると,休憩時間が2時間であるとの被告の主張を認めることはできず,休憩時間は1時間として計算するのが相当である。
(4)原告の時間外労働(残業),深夜労働
 以上によると,原告は,ワーキングフォーム(甲1の各号)への記載をしていたが,ときには,一定期間をまとめて記載していたこと,その際は,特にメモなどによらず,記憶によって記載していたことが認められる(原告本人)。その結果,他の証拠から認められる事実と明らかな齟齬もあるが,全体として,自分の業務実態を記憶して,これに基づき再現しようとしたものと認めることができ,これらを総合考慮し,上記ワーキングフォームの記載から求められる時間外労働(残業)のうち,約3分の2程度の時間外労働(残業)を認めるのが相当である(法定内時間外労働(残業)については,1日の労働時間が8時間を切らない限り,就労した日数に1時間を乗じる。)。
 なお,深夜労働については,被告も認める前記エの限度(平成14年12月24日の7時間,平成15年3月10日の7時間,同年3月31日の1時間)及び解雇直前の平成15年10月20日から21日午前5時(解雇の正確な時刻は必ずしも不明未明であるが,午前5時まで拘束されていたと同視すべきである。)にかけての7時間を認めるのが相当である。
 したがって,原告の平成14年10月分(9月30日分を含む。)から平成15年10月分までの時間外労働(残業),深夜労働は,別紙2〈28頁〉割増賃金(残業代)等算定表記載のとおりとなる。
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