2009年2月13日金曜日

サービス残業(残業代請求)

今日は、サービス残業の残業代請求についての裁判例を紹介しています(つづき)。

第3 当裁判所の判断
1 紛争を巡る経緯
 前提となる事実,証拠(〈証拠略〉,原告本人,被告代表者本人,後掲のもの)及び弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。
(1)当事者
ア 被告
 前提となる事実(1)アのとおりである。
 乙山は,中国貿易に関する商社での勤務を経て,1人でアメリカ向けの輸出の仕事をし,その後,ドイツ系の出版社に勤務していたが,平成10年7月に退職し,独立した。
 当初,個人でスタートしたが,取引先の要望に従い,合資会社(被告)を設立した。
 被告は,常時,15名程度の学生アルバイトを雇用していたが,主に,大阪大学などの理系学部の大学生から採用していた。
イ 原告
 原告は,平成11年9月から3か月間,パートタイマー(時給900円)として雇われ,その後,フルタイムの正社員となった(月給22万円)。
(2)雇用契約に至る経緯
ア 従業員の募集
 被告は,医学関連の研究データを解析したり,解析データを整理して視覚化したりするほか,学会発表や論文投稿において,翻訳や印刷物の作成などによるサポート業務を行っていた。
 作業は,乙山が中心となり,これを学生アルバイトが分担,補助するという体制で行っていた。しかし,学生アルバイトは,授業などのため,主に夕刻から勤務することや,次第に多忙となっていったことから,被告は,午前中や日中,編集・製作の補助や庶務的な作業を担当するスタッフが必要となり,新聞やハローワークに求人募集を出した。
 2名の女性が応募し,被告は,平成11年9月,編集の補助(1名)と,庶務(1名)を採用することとしたが,その1,2週間後,ハローワークの募集を見て,原告が応募してきた。
イ 原告との雇用契約
 被告は,庶務として採用した女性が,隔日勤務であることや1日5時間程度しか勤務できないこともあり,原告を庶務及び編集・製作の補助のアルバイトとして,採用することとした。
 雇用契約の内容については,前提となる事実(2)アのとおりである。
ウ 正社員としての採用
 被告は,これら3名の女性アルバイトについて,採用後6か月間様子を見ることを予定していたが(試用期間でもあり,6か月後に正社員として採用するかどうかを判断するためのものと思われる。),他の2名は,平成11年中に相次いで退職したため,被告は,アルバイトとして採用した後3か月が経過した段階で,原告を正社員として採用することとした。
 雇用契約の内容については,前提となる事実(2)イのとおりである。
エ 時間外手当(残業代)不支給の合意
 原告と被告との間で,時間外手当(残業代)については,支給しないとの合意がされた(〈証拠略〉)。
(3)原告の業務内容
ア 前記(2)イのとおり,原告は,被告において,庶務及び編集・製作補助の業務に従事していた。
 具体的には,例えば,製薬会社などから著名な研究者を招いた座談会を企画し,その内容を記事にするような場合,座談会の場所の手配や,乙山の指示した資料のコピーを大阪大学の図書館で入手したり,座談会の内容のテープ起こしをしたりなどして,座談会の実施や,記事の作成の補助をしていた。
イ 就労条件の変更
 前提となる事実(2)ウのとおりである。
ウ 時間管理
(ア)学生アルバイトは,時給であったので,ワーキングフォーム(出退勤表)による時間管理がされていた。
 ワーキングフォームは,従業員毎にクリアブックに収納され,記入前の用紙とともに,1つのファイルに綴じ込まれていた。ファイルは,被告事務所に設置されており,学生アルバイトは,ファイルに綴じられたクリアブックから自分のワーキングフォームを取出し,出社時刻と退社時刻を記入していた。
 原告も,当初は,アルバイトであったため,ワーキングフォームへの記入を命じられていたが,パソコン入力で,一定期間分をまとめて記載していた(アルバイトであっても,フルタイムであったため,時間管理の必要性は,学生アルバイトに比べ低かったといえる。)。
(イ)その後,原告が,正社員として採用され,月額給与となり,しかも,前記(2)エのとおり,時間外手当(残業代)を支給しない旨の合意があったため,原告がワーキングフォームに記載する実質的な必要は低下し,被告も,原告のワーキングフォームの記載内容を確認することは,ほとんどなくなった。
(ウ)A(以下「A」という。)は,平成10年12月ころから,被告においてアルバイトとして勤務することがあったが,平成13年4月から,フルタイムの正社員として採用された。しかし,Aの勤務時間がルーズであり,同年4月以降,ワーキングフォームへの記載がなかったため,同年6月18日,被告がAに対し,ワーキングフォームへの記載を義務付け,併せて,同じ立場である原告にも同様にワーキングフォームへの記載を義務付けた(〈証拠略〉,原告本人8頁〈以下,頁数は略〉)。
 しかし,被告としては,原告のワーキングフォームへの記載内容については,あまり関心がなく,原告も,1週間分など,一定期間分をまとめて記載することもあった(原告本人)。
エ 乙山との言い争い
 原告は,自分の勤務スタイルに固執することが多く,乙山の指示に対し,反発したりすることが多かった。その結果,お互いが譲ることなく,長時間言い争いとなることがあり,学生アルバイトが辟易するほどであった。
(4)解雇
 被告は,平成15年10月21日から神戸市内のホテルで開催された国際学会(CCT主催)において,ニュース発信(毎日,ニュースを会員に配る。)を請け負い,同年10月19日から,仕事部屋用にスイートルームを1部屋,宿泊用を4部屋確保していた。
 同年10月21日の未明,原告がホテルでの宿泊を希望し,学生アルバイトより,自分を優先しようとしたことに対し,乙山が激怒し,その場で解雇を通告した。
(5)時間外手当(残業代)の請求
 原告は,被告に対し,平成15年10月30日付の書面(〈証拠略〉)を送付し,平成13年11月分から2年間分の時間外手当(残業代)として311万6794円の請求をした。
 その後の平成15年12月8日,原告は,茨木労働基準監督署に労働基準法37条違反の申告をし,労働基準監督官が被告事務所に臨検の上,乙山から事情を聴取するなど調査をしたが,双方の言い分が全く異なるため,「始業・終業の時刻を記録するなど労働時間の管理を行うこと。」と是正勧告をしただけで,それ以上の措置をとることはなかった(〈証拠略〉)。
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