2009年3月3日火曜日

残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に関する判例を紹介します(つづき)。 

2 原告の時間外労働(残業),深夜労働の有無
(1)ワーキングフォームの記載
ア はじめに
 原告の請求は,甲1の各号に記載された出退勤時刻を前提にしたものである。
 これに対し,被告は,甲1の各号について,原告が,解雇された後の,平成15年10月22日,23日,被告事務所に無断で侵入し,まとめて書いたもので,その記載内容は信用できないという趣旨の主張をする。
 確かに,甲1の各号の記載内容は,原告自身,一定程度のまとめ書きをしていたと供述しており(〈証拠略〉,原告本人),また,後述のとおり,関係証拠に照らし,符合しない箇所がある。
 このため,記載内容が正確であるとは言い難い。
 一方で,例えば,徹夜に近い残業があったことについての記載は,被告の主張とも一致している。
 そうすると,甲1の各号の記載を全くのでたらめとはいえず,無視することは困難である。
 そこで,甲1の各号の記載内容がどの程度信用でき,時間外労働(残業)の算定に用いることができるかについて,以下,検討する。
イ ワーキングフォームの作成経緯(まとめ書きの可能性)
(ア)ワーキングフォーム作成の指示
 ワーキングフォームの作成経緯については,前記1(3)ウのとおりである。
 被告は,甲1の各号は,被告が作成を指示したものではないと主張するが(被告の主張(1)参照),一方で,原告に対し,ワーキングフォームの作成を指示したこと自体を否定しているわけではない(〈証拠略〉,被告代表者本人)。
 被告としては,甲1の各号は,原告が平成15年10月22日,23日に書き上げたもので,被告の指示に基づき作成されたワーキングフォームとは異なるという趣旨の主張をしているものと解されるが,被告の指示に基づき作成されたワーキングフォームが別に存在するとの立証はなく,その形跡も窺えない。むしろ,前記1(3)ウ(ウ)に述べた経緯により,原告は,平成13年6月以降,被告の指示に基づき,ワーキングフォームを作成していたことが認められる(〈証拠略〉)。したがって,甲1の各号の記載の信用性はともかく,その一部の記載は,被告の指示に基づくものと認めるのが相当である。
 なお,乙山は,Aが平成14年8月に退職した後,原告に対して,ワーキングフォームへの記載を指示していないと供述するが(〈証拠略〉),中止するよう指示したとまで述べるものではなく,原告が,その後も,ワーキングフォームへの記載を続けたとしても不思議ではない。
(イ)原告がワーキングフォームの原本(〈証拠略〉)から写し(〈証拠略〉)を作成した日時について
 原告は,平成15年10月21日の未明に解雇の意思表示を受けたが,ワーキングフォームの同日欄には,退勤時刻として午後2時10分と記載されている。
 この記載は,解雇の意思表示を受けた後の事実に関する記載であるから,原告が,解雇後,被告事務所を訪れて記載したものである。
 原告は,同年10月22日,23日,被告事務所を訪れており(〈証拠略〉),上記記載は,その際にされたものであると認められる。
 また,上記記載の含まれた甲1の各号のコピーも,当然,その際にされたことが認められる。
(ウ)ワーキングフォームの記載ミスの訂正について
 被告は,ワーキングフォームの記載の訂正箇所やその内容から,ワーキングフォームの記載は,まとめ書きしたものであり,信用できないと主張する。
 たしかに,甲1の8によると,平成15年4月21日から7日分の記載が,いずれも午前8時台となっているのを午前9時台に訂正しているが,このような記載は,一斉に記載かつ訂正したことを窺わせる。
 しかし,原告自身,まとめ書き自体を否定しておらず(前記1(3)ウ(ウ)参照),上記のような訂正があるからといって,平成15年10月22日,23日に,全てをまとめ書きしたとはいえない。
(エ)乙2の各号の原本の形状から窺える事情(その1)
 被告は,乙2の各号のアミノ酸反応から,原告のワーキングフォームからは他の学生アルバイトのワーキングフォームに比べ,指紋検出の個数が極端に少ないことが判明したとし,本件解雇のころ,まとめ書きしたと主張する。
 たしかに,証拠(〈証拠略〉)によると,原告のワーキングフォーム(乙2の各号)に指紋の付着している個数が,原告以外の従業員のワーキングフォームに比べ少ないことが窺われる。もっとも,対象となった学生アルバイトのワーキングフォームは,その対象資料(サンプル)として妥当とはいえない(本来であれば,原告のワーキングフォームの指紋付着量が著しく少ないことを立証するためには,多くの対象資料との比較を必要とする。)。
 仮に,上記証拠のとおり,原告と他の学生アルバイトのワーキングフォームを比べ,指紋の付着量が異なるとしても,原告が,1週間くらいのまとめ書きをしていたとするなら(原告本人。しかし,そのことにより,記載の信用性が低下することは否定できない。),矛盾する現象とはいえない。
 また,学生アルバイトのワーキングフォームは,時給の算定のために,学生アルバイト自身以外の者が,これを点検し,労働時間を計算する必要があるが,そのため,原告のワーキングフォームより,多人数が,多数回触れる機会は多かったということができる。
(オ)乙2の各号の原本の形状から窺える事情(その2)
 被告は,光通過量検査と筆痕の凹凸差から,原告と他の学生アルバイトのワーキングフォームを比べると,原告のワーキングフォームの方の誤差の幅が狭いことから,同一機会に記載されたものであると主張する。
 たしかに,証拠(〈証拠略〉)によると,他の学生アルバイトと原告との間で,ワーキングフォームの上記数値を比較したところ,他の学生アルバイトの数値に比べ,数値の幅が狭い。
 しかし,毎日,同じ筆記用具で記載されたかどうかなどの条件についての考慮がされているとは思えず,上述した事情のみで,原告のワーキングフォームの記載が,同一機会になされたと認めることは困難というべきである。
 また,対象資料となるべき学生アルバイトのワーキングフォームは,Bの平成15年10月分しかなく,対象資料の観点からも,上記結論を導くことは困難である。
(カ)学生アルバイトらの目撃供述について
 学生アルバイトは,原告がワーキングフォームに記載していたのを目撃したことはないと供述する(〈証拠・人証略〉)。
 しかし,これらの学生アルバイトと原告の勤務時間が完全に重なっていることはなく(学生アルバイトは,夕方から出社することが多かった〔前記1(2)ア〕。),また,学生アルバイトが,当時の原告の行動(しかも,自分とは直接関係することのない行動)の有無を正確に記憶しているとは考えにくい。
 むしろ,平成15年10月22日,23日,原告が,ワーキングフォームのファイルを持ち出したことや,ワーキングフォームにまとめ書きをしたことを目撃した者がいないことからすると,原告がワーキングフォームに記載しているのを目撃したことがないとする学生アルバイトの供述の信用性は低いというべきである(なお,被告の主張によると,被告事務所は施錠されていたというのであるから,誰にも目撃されずに,ワーキングフォームのファイルを持ち出すことは困難である。)。
(キ)乙山の供述について
 乙山もまた,原告がワーキングフォームへ記載していたことを否定する趣旨の供述をするが,一旦,原告に対し,ワーキングフォームへの記載を命じた後(前記1(3)ウ(ウ)参照),その中止の指示は曖昧で,原告自身まとめ書きを否定していないことに照らすと,上記供述の信用性をそのまま認めることはできない。
(ク)まとめ
 以上によると,原告が甲1の各号の原本である乙2の各号を,平成15年10月22日,23日に,まとめて作成したと認めることは困難である。
 むしろ,原告は,平成13年6月以降,一定期間分をまとめ書きしながらも,当時の記憶に基づき,ワーキングフォーム(乙2の各号)を作成していたと認めるのが相当である。
なお、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士料やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。そのほか、個人の方で、不当解雇保険会社との交通事故の示談・慰謝料の交渉オフィスや店舗の敷金返還請求(原状回復義務)多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題刑事事件などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。