2009年5月30日土曜日

残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。


(エ)J証言について
a 平成15年4月23日の件
 原告のワーキングフォームの同日欄によると,原告の退社時刻は午後8時25分と記載されている(〈証拠略〉)。
 これに対し,Jは,平成15年4月23日,午後5時に出社し,一旦,大阪市都島区の製薬会社に資料を届けるため,外出し,午後7時30分には帰社したが,その際には,原告は既に退社して,在室していなかったと供述する。
 しかし,Jが,上記同日,午後5時に出社したからといって(〈証拠略〉),直ちに,資料を届けるよう命じられたかどうかは不明であり,これを裏付ける証拠はない。
 また,Jの証言によると,結局,資料を届けようとした相手方の担当者が不在であるため,資料を持って帰社したというのであるが(〈人証略〉),そのような場合,せっかく,都島区まで来たのであるから,最終的に,乙山の指示を仰いで帰社するにしても,それまでの間に,何らかの措置を講じようとし,一定程度の時間を消費するのが普通であることを考えると,果たして,2時間30分で全ての作業を終えて,帰社することができたのかどうかについても疑問の余地がある。
 さらに,Jが帰社した際,原告を見かけなかったということについても,裏付けがある訳ではない。Jは,原告と乙山のやりとりを聞くのが苦痛であり,平成15年4月23日は,これを聞かなかったと述べる。その理由として,Jは,原告と乙山のやりとりを聞くのが苦痛で,原告を避けたり,原告の在室の有無が関心事であったという証言をする(〈人証略〉)。しかし,Jが被告でアルバイトするようになって,原告と勤務時間が重なっている日は,平成15年4月23日で4回目である(〈証拠略〉)。それまでの3回で,果たして,Jにとって,原告の在室の有無が大きな関心事となっており,外出の後,帰社して,原告が在室していなかったことについての記憶を保持し続けるだけの関心事であったといえるかは疑問の余地がある(何か特徴的な出来事を伴う在室についての記憶であれば,それなりに信用することができるが,単に,自分の避けたい人が在室していなかったというだけの記憶の信用性はそれほど高いとはいえず,しかも,その時点で,避けたいという気持ちが強かったとまで認めるのは困難である。)。
b 平成15年5月14日の件
 原告のワーキングフォームの同日欄によると,原告の退社時刻は,午後8時44分と記載されている(〈証拠略〉)。
 これに対し,Jは,平成15年5月14日,午後5時に出社し,宅配便を届けるよう指示され,被告事務所の近くにある宅配便の取扱店の場所を知らずに,遠くの取扱店まで行ったため,1時間10分から1時間15分ほどかけて,帰社し,その後1時間ほどして原告が退社したと供述する(〈人証略〉)。
 この点についても,Jが,上記同日,午後5時に出社したからといって(〈証拠略〉),直ちに,宅配便を届けるよう命じられたかどうかは,これを裏付ける証拠はない。
 また,仮に,用事を済ませて帰社するまでに1時間10分程度しか要しなかったとしても,帰社後,原告が退社するまでの時間が1時間程度であったことを裏付ける証拠もない。
 例えば,入れ替わりであったというような状況があり,短時間であったという供述であればともかく,4年近く前の記憶に基づく供述であることを考えると,帰社後,原告が退社するまでの時間が1時間程度であったという供述を,そのまま採用することは困難である。
(オ)帯状庖疹の治療
 乙山は,原告が,平成14年の秋から,帯状庖疹に罹患し,その治療等のため,半休,早退が多く,当時の勤務実態と甲1号証の各号の記載とが符合しない旨供述する(〈証拠略〉)。
 しかし,原告の病状や治療状況について,原告の主張を裏付ける証拠はなく,原告の供述(〈証拠略〉,原告本人)に照らしても,乙山の供述を直ちに採用することはできない。
(カ)食事中の退社について
 また,被告は,平成15年8月25日,27日,9月5日,24日,10月9日,食事のために,被告事務所に鍵を掛けて外出しているにもかかわらず,外出時間中に原告が退社する可能性はないと主張する。
 一方,同年8月13日には,乙山が,午後7時45分ころ,原告を同行して,飲食店を訪れているのに,原告が午後9時15分に退社する可能性はないと主張するので,以下,検討する。
 なお,原告は,被告事務所では,施錠しないので,乙山や他の従業員が外食に出た後でも,原告が退社することはあり得るという趣旨の供述をし(〈証拠略〉,原告本人),証人Aも同様の供述をする(〈人証略〉)。
 しかし,時間帯にもよるが,夜間,被告事務所の施錠をせずに外出することは考えにくく,学生アルバイトであるCらの供述(〈証拠略〉)に照らしても採用できない。
a 平成15年8月25日の件
 証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によると,乙山は夫とともに,平成15年8月25日,外出し,午後10時48分に飲食店に入店し,午後11時48分に会計を済ませたことが認められる。
 一方,原告のワーキングフォームの同日欄によると,原告の退社時刻は,午後11時14分と記載されているが(〈証拠略〉),他に被告事務所には誰もいなかったことを考えると(〈証拠略〉,弁論の全趣旨),上記退社時刻の記載は信用できない。
b 平成15年8月27日の件
 証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によると,乙山は夫と,その友人であるIとともに,平成15年8月27日,外出し,食事をしたことが認められる。
 一方,原告のワーキングフォームの同日欄によると,原告の退社時刻は,午後10時18分と記載されている(〈証拠略〉)。
 乙山らが食事をした時刻は,不明であるが,店名から通常の飲食店であることが窺えることや(深夜営業しているとは考えにくい。),その勘定が合計2万9440円であることから考えると,被告事務所を出た時刻は,午後10時18分より前であったと推認でき,原告の他に被告事務所には誰もいなかったことを考えると(〈証拠略〉,弁論の全趣旨),上記退社時刻の記載は信用できない。
c 平成15年9月5日の件
 証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によると,乙山は夫と,学生アルバイトのDとともに,平成15年9月5日,外出し,食事をし,午後11時45分に会計を済ませたことが認められる。
 一方,原告のワーキングフォームの同日欄によると,原告の退社時刻は,午後10時19分と記載されている(〈証拠略〉)。
 乙山らが外出した時刻は不明であり,上記の外食の事実だけで,必ずしも,上記退社時刻の記載の信用性を否定することは困難というべきである。
 なお,乙山は,この日に食事をした飲食店は,ラストオーダーが午後9時30分で,それ以降は入店できないと述べるが(〈証拠略〉),ラストオーダーが午後9時30分であるのに,会計が午後11時45分にされたというのも,若干不自然というべきである。
d 平成15年9月24日の件
 証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によると,乙山は夫とともに,平成15年9月24日,外出し,食事をしたことが認められる。
 一方,原告のワーキングフォームの同日欄によると,原告の退社時刻は,午後8時39分と記載されている(〈証拠略〉)。
 乙山らが外出した時刻は不明であり,上記の外食の事実だけで,上記退社時刻の記載の信用性を否定することは困難である。
e 平成15年10月9日の件
 証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によると,乙山は夫とともに,平成15年10月9日,外出し,食事をし,午後11時34分に会計を済ませたことが認められる。
 一方,原告のワーキングフォームの同日欄によると,原告の退社時刻は,午後10時48分と記載されている(〈証拠略〉)。
 乙山らが入店した時刻は不明であるが,伝票(〈証拠略〉)から窺える食事の内容や被告事務所との距離を考えると,乙山らが被告事務所を出た時刻は,午後10時48分より前であったと推認でき,原告の他に被告事務所には誰もいなかったことを考えると(〈証拠略〉),上記退社時刻の記載は信用できない。
f 平成15年8月13日の件
 乙山が,平成15年8月13日午後7時45分ころ,原告を同行して,外出し,食事をしたことを裏付ける証拠はなく,原告のワーキングフォームの同日欄の記載の信用性を否定することは困難である。
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