2009年4月23日木曜日

不払い残業代請求

今日は、サービス残業の残業代請求についての裁判例を紹介しています(つづき)。

ウ 原告のワーキングフォーム(甲1の各号)の記載と矛盾する点
 被告は,次のとおり,原告のワーキングフォーム(甲1の各号)の記載が,客観的な事実と矛盾しており,虚偽であると主張するので,以下,検討する。
(ア)平成15年8月のインターホン工事について
 被告は,乙山の自宅と被告の事務所が入居しているマンションのインターホン工事が行われた際,管理組合の代表であった乙山が,被告事務所を工事担当者らとの協議などを行う場所として開放し,平成15年8月7日(木),8日(金),12日(火),20日(水),21日(木),22日(金)及び28日(木)には,被告事務所において,原告が用いているテーブルを使用して工事担当者と打合せをしているので,上記の日に原告が午後8時以降まで残業をした可能性はないと主張する。
 また,被告は,平成15年8月20日(水),21日(木),23日(土),24日(日),25日(月),26日(火),27日(水),28日(木),30日(土),9月25日(木),29日(月),工事が実施され,工事業者は,毎日午後7時前後,乙山宅に工事の経過と結果を報告しており,その際,被告事務所の原告の席を使っていたと主張する一方,管理組合の代表としての打合せは,原告の出勤日でない土・日に実施されていたとも主張する。
 このように,被告の主張は一定しておらず,しかも,上記の日に打合せがされたとしても,必ず原告の使用するテーブルを使用して打合せをしたと認めるだけの証拠はなく,被告の主張を前提とすることは困難である。
 さらに,被告の主張するとおり,乙山が,和菓子で工事業者をねぎらったことがあるとしても,それは,乙山宅の工事が実施された同年8月20日と21日のことであり,それ以外の日に,工事業者が,経過と結果報告のために,被告事務所(もしくは乙山宅)を訪れることがあったとしても,原告の席を一定時間にわたって占拠するということは考えにくい(通常,それぞれ各戸の工事が終了したことを告げるだけであると推測される。)。
(イ)学生アルバイトとの競合について
 被告は,被告事務所の席は6席しかなく,うち1席は乙山専用であり,平成15年8月1日,4日,10月6日,7日には,学生アルバイトの数(5名)から,原告が事務所にいる場所がなくなっているはずであるとして,上記の日に残業をすることはあり得ないと主張する。
 しかし,平成15年8月1日についていえば,学生アルバイト5名が揃うのは,午後5時になってからであり,その時点では,未だ原告の所定労働時間内である。一方,学生アルバイトのうち1名は,午後6時には退社している(〈証拠略〉)。
 また,平成15年10月6日,7日は,その前後を通じ,学生アルバイトの数は多くなっているが,仮に学生アルバイトの数が被告の主張どおりであったとしても,原告の居場所や仕事が直ちになくなるとは考えられない。
(ウ)学生アルバイトらの目撃供述
a Cの供述
 Cは,平成15年10月のうち,13日間アルバイトし,その間6日は原告の勤務と交錯したが,原告がCより退社が遅かったのは1回だけであると述べる(〈証拠略〉)。
 しかし,原告の退社が自分より遅かったのが1回だけであるとの記憶をそのまま信用できるかについては,上記陳述書の作成が平成18年5月21日であり(〈証拠略〉),2年以上が経過した後の供述であることや,Cが被告でアルバイトをしていたのは平成15年5月から平成17年6月までであるが(〈証拠略〉),そのうち,平成15年10月に限定して,上記のような特定が可能であるかについて,疑問の残るところである。むしろ,Cは,夕刻出社し,5時間を一区切りとしてアルバイトをしていたというのであるから(〈証拠略〉),6分の1の確率であっても,Cより退社時刻が遅かったことは,原告の残業(しかも,相当遅くまでの残業)が,必ずしも珍しくないものであったことを窺わせる。
b Dの供述
 Dは,「乙山が夕食を作ることがあり,これが出されるのが午後10時30分であったが,原告は既に退社しているか,食事を辞退して,退社していた。」旨の供述をする(〈証拠略〉)。
 しかし,上記供述中,夕食が提供された日を特定する証拠や,時刻を具体的に裏付ける証拠はない。むしろ,上記供述によると,午後10時30分ころ,原告が未だ退社前であることを前提とした内容の供述を含んでいることを指摘できる。
c Eの供述
 Eは,平成15年3月13日と14日は,乙山とだけで長時間仕事をしており,原告はいなかったと供述する(〈証拠略〉)。
 原告のワーキングフォームの記載によると,原告は,平成15年3月13日は午後11時15分まで,同月14日は午後10時25分まで勤務したこととなっているが(〈証拠略〉),Eの上記記憶が正確であるという裏付けはなく,上記日時における原告のワーキングフォームの記載が誤りであると認めることはできない。
 また,Eは,平成15年7月7日午後8時過ぎ,被告事務所にいた乙山らと4名全員で外食したが,原告はいなかったと供述するが,時刻を裏付ける証拠はなく,原告のワーキングフォーム(〈証拠略〉)の同日欄の記載(午後8時55分に退社)の信用性を直ちに減殺するとはいえない。
d Fの供述
 Fは,「平成14年12月25日,原告が,乙山から何度もいわれて,ようやく退社した。乙山から『びっくりしたでしょ。いつも帰ってもらうのに一騒動なの。』というようなことを言われた。」旨供述する(〈証拠略〉)。
 上記供述からは,原告の退社した時刻は明確ではないものの,日常的に,所定労働時間を超えて,原告が退社しないことがあったことを窺わせる(これが,業務命令に基づくものかどうかについては,別問題となる。)。
e Gの供述
 Gは,平成15年2月21日午後9時15分、被告事務所にいた乙山らと3名全員で外食したが(〈証拠略〉),原告はずっと前に退社していなかったと供述するが(〈証拠略〉),それぞれの時刻を裏付ける証拠はなく,原告のワーキングフォーム(〈証拠略〉)の同日欄の記載(午後9時8分に退社)の信用性を直ちに減殺するとはいえない。
f 乙山次郎の供述
 乙山次郎は,「学校を終えて(被告事務所に)帰宅するのは遅くて午後10時であったが,被告事務所で原告を見かけたことは数回である。」旨の供述をする(〈証拠略〉)。 
 しかし,乙山次郎が,帰宅したからといって,必ず,直ちに被告事務所に顔を見せるということがどの程度あるのかは不明であり,直ちに,上記供述が,原告のワーキングフォームの記載の信用性を減殺するとはいえない。
なお、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士料やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。そのほか、個人の方で、不当解雇保険会社との交通事故の示談・慰謝料の交渉オフィスや店舗の敷金返還請求(原状回復義務)多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題刑事事件などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。